東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)236号 判決 1978年7月14日
原告
鈴木義憲
外一四名
右原告ら訴訟代理人
佐藤義弥
駿河哲男
各事件被告
林野庁長官
藍形義邦
右訴訟代理人
横山茂
外一〇名
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。
二国有林野事業の規模と機能
<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
わが国の林野面積は昭和四五年四月一日現在で国土総面積約三、七〇〇万ヘクタールの六九パーセントにあたる約二、四四九万ヘクタールを占めているが、国有林野面積は右林野面積の約三一パーセント、七五八万ヘクタール、国土総面積の約二〇パーセントを占めている。また国有林野の森林総蓄積は昭和四六年四月一日現在で約八億七、六〇〇万立方メートルでわが国森林蓄積約一九億立方メートルの約四六パーセントを占めており、民有林が比較的里山近い地域に位置するのに対し、国有林野は各地のせき梁山脈沿いの奥地の主要河川の上流地帯に位置し、国土の保全、水資源の涵養、自然環境の保全、保健休養の場の提供等の公益的機能を重視すべき森林が多い特色を有している。国有林野事業は、このような国有林野を統一的かつ計画的に管理運営する国営企業であつて、木材生産事業、林道事業、造林事業、種苗事業、治山事業等を経営し、もつぱら利潤追求を目的とする民有林野事業と異なり、企業性の確保を考慮しつつもその適切な運営を通じて国土保全上必要な施策その他の公益的業務を推進するもので(国有林野経営規程三条)右のような公益的機能のほか、林産物の供給など経済的機能の面においてもその需給及び価格の安定に寄与し、更に精神的、文化的な農山村の福祉の向上に努めることもその目的にしている(林業基本法四条)。
三処分事由たる争議行為
昭和四六年四月二三日別紙(四)記載のとおり常勤制確立、全員常用化を要求して七二営林署に勤務する全林野所属組合員五三二二名が四時間にわたりストライキを実施し、賃金値上げを要求して同月三〇日別紙(五)記載のとおり二〇営林署に勤務する同組合員四八五名が四時間にわたり、同年五月二〇日別紙(六)記載のとおり二一営林署に勤務する同組合員五二九名が二時間五〇分にわたりそれぞれストライキを実施したこと、全林野九州地方本部鹿児島分会所属の船員である定員内職員一一名が景山丸廃船に反対して昭和四六年五月八日四時間にわたりストライキを実施したことは当事者間に争いがない。
(一) 四・二三ストの背景と経緯
1 作業員の雇用形態、待遇等
当事者間に争いがない事実と<証拠>を総合すると国有林野事業における作業員制度について次の事実が認められ、<証拠判断略>。
(1) 一般に林野事業経営は、造林、種苗事業のように地拵え、植付けの作業適期が春から秋に限定され、また、積雪地帯では冬の作業遂行は不可能であるなどその事業の性質上自然的、季節的要因に左右される面が多く、年間を通じて平準化した事業を継続することは困難であるため、作業員の雇用も季節的形態をとらざるを得ないことから、右作業員の大部分は定員外職員としての扱いを受けて現在に至つているが、賃金が日給制であり、有期雇用であること、その他諸手当、休暇等の労働条件につき定員内職員に比し劣るところがあつたため、その地位と処遇問題は林野庁及び全林野間の長年の懸案事項となつていた。
(2) 国有林野事業は昭和二二年にいわゆる林政統一が実現して従来の農林省、内務省の内地国有林、北海道国有林、御料林の各所管が一本化され、それと併行して国有林野特別会計法が制定され、独立採算制を指向することとなり、同時に作業員の身分についても昭和二二年一〇月制定の国公法では「単純な労務に雇用される者」として国家公務員の特別職として取扱われたが、翌二三年には一般職の国家公務員に切換えられ、非常勤職員として人事院規則が適用されることになつた。しかし、労務の実態は戦前の組頭制度が残つているところもあつたので林野庁は昭和二五年に「営林局署労務者取扱規程」、同二六年には「営林局署労務者処遇規程」を定めて、同制度を廃止し、組頭は班長として直接雇用されることになつた。
その後昭和二八年に国有林野事業の作業員の労働関係には公労法が適用されることとなり、同年一月一日林野庁と全林野との間に「労働条件の暫定的取扱いに関する協定」が結ばれ、更に同二九年三月には「定員外職員の雇用区分、雇用基準及び解雇の場合に関する覚書」が締結され、労使協議による雇用制度として常勤及び常用作業員、定期作業員、臨時作業員の新雇用区分が定められ、同三〇年四月国有林野事業職員就業規則、同作業員就業規則が制定され後者の中に右の雇用区分が規定され更に常用、定期、臨時の各作業員の賃金については同三六年九月に三六林協第三五号協約が結ばれ、同三七年一一月には「定期作業員の優先雇用」について労使の確認がなされた。かかる変遷を経て、同四四年四月に前記昭和二九年三月の覚書を改正した「雇用区分等覚書」が締結され、常勤等を除く定員外職員として常用作業員、定期作業員、臨時作業員の雇用区分、雇用基準等が定められ、以後現在に至つている。
(3) 現行の雇用区分を定めた昭和四四年四月の雇用区分等覚書によれば、作業員の雇用基準につき、常用作業員(一年以上雇用される者)が、従来「一年以上の継続勤務の実績及び同種職務の経験又は同程度の能力の保有」をも資格要件としていたのを改め「一二ケ月をこえて継続して勤務する必要があり、かつ、その見込があること」をもつて足りるとし、定期作業員(毎年六ケ月以上雇用される者)が従来「前年度同程度の期間の継続勤務の実績」をも資格要件としていたのを改め、「毎年同一時季に六ケ月以上継続して勤務することを例とする必要があり、かつ、その見込があること」をもつて足りるとし、臨時従業員(臨時に雇用される者)が従来日雇と月雇があつて月雇が一ケ月以上の継続勤務の必要」等を資格要件としていたのを改め、右二種の区別を廃し「臨時に勤務する必要があること」をもつて足りるとして、いずれもこれを緩和することによつて、更に雇用の安定化がはかられることとなつた。昭和四六年七月現在における常用作業員は約一万六〇〇〇人、定期作業員は約一万六〇〇人、臨時作業員は約四万二〇〇〇人である。
これら作業員は非常勤職員としての資格で人事院規則八―一四に基づき採用されているが、常用作業員は雇用期間(二ケ月)の更新により実質上通年雇用であり、定期作業員は、雇用期間(二ケ月)の更新による六ケ月以上一年未満の有期の雇用であるが、翌年の作業適期に優先的に再雇用され冬期の失職期間中は、国家公務員等退職手当法一〇条による退職手当又は失業保険金を受給するという反覆雇用であり、いずれも実質上安定した雇用形態となつている。その結果、常用作業員の平均勤続年数は七、八年、定期作業員の平均在職年数は八、九年に及んでいる。
(4) 国有林野事業に従事する職員の賃金については給特法が適用され、同法三条二項により国家公務員、民間企業の従業員の給与等諸般の事情を総合して定められるが、定員外職員である作業員については昭和三六年九月に締結された前記三六林協第三五号協約によつており、同協約は作業員の基本賃金につき日給制をとり、その支払形態として定額日給制と単純出来高給制を定めている。これら賃金額の決定については毎年団体交渉が行われるが、合意に達することが殆んどないので、公労法により労使双方又はいずれかが公共企業体等労働委員会に調停、仲裁を申請し、その結果、年々金額の上昇がみられ、月給制職員である定員内職員との上昇率の差が縮小に向つている。このほか労使交渉の結果、常用及び定期作業員に対する期末手当、扶養家族手当、通勤手当、住居手当、薪炭手当、石炭手当、寒冷地手当、役付手当、山泊手当等の諸手当の支給、各種休暇及び祝日の有給化等の待遇改善が順次制度化され、実現するに至つており、定員内職員との処遇上の格差及び常用作業員と定期作業員との処遇上の格差が漸次縮小されつつある。なお、国有林野事業の会計は国有林野事業特別会計法により特別会計として運営され、歳入歳出の予算は事業勘定と治山勘定に区分され国会の議決を受けることになつているが、定員内職員の給与については予算上目の立てがあり予算給与総額に拘束されるのに対し、定員外職員である常用、定期、臨時の各作業員の給与については予算上目の立てはなく事業費(物件費、役務費、労賃)の中に積算される仕組みになつている。
2 雇用安定化をめぐる労使交渉と四・二三ストの実施
当事者間に争いのない事実と<証拠>を総合すると「二確認」をめぐる労使交渉の経過について次の事実が認められる。
(1) 全林野の作業員の雇用安定化要求は、作業員が恒常的業務に従事しているとの前提に立つたうえで、その定員内への組入れか、少なくとも、定員内職員と同じ待遇を受け得る常勤職員としての地位を法的に位置づけるという点にあつたが、林野庁は全林野の要求に対し、昭和四一年三月二五日直営直用による雇用の安定化の検討と通年化の努力(三・二五確認)、同年六月三〇日基幹要員の臨時的雇用制度の抜本的改善による雇用の安定化の実現とそのための当面の措置として生産事業の通年化による通年雇用及び事業実施期間の拡大、各種事業の組合わせによる雇用期間の延長をはかること(六・三〇確認)を要旨とする作業員の雇用安定化のための方策を確認した(当時の全林野の雇用安定化要求は前記の如く明確には整理されていなかつたが、基本的にはこれと同旨に出たものとみて差支えない)。作業員の雇用、処遇改善は前記「二確認」をどう具体化するかにあつたが、六・三〇確認後、林野庁当局は雇用制度検討会を設置し、制度改正の具体化を検討し、全林野も昭和四二年一〇月に臨時的雇用制度を抜本的に改善し、基幹要員の全員常用化を実施すること、常用作業員の処遇を改善することなどを内容とする「差別撤廃要求」を林野庁に提示した。かくて、労使は交渉とこれに基づく確認事項を重ねたが、とくに昭和四三年一二月の団体交渉において林野庁は、作業員を国公法上の常勤職員とするについては昭和三六年の閣議決定「定員外職員の常勤化の防止について」、昭和三七年一月の同「定員外職員の定員繰入れに伴う措置について」があるので困難であるとしながらも、「基幹要員は通年雇用に改める。基幹要員については常勤性を付与する。処遇関係についても常勤性にふさわしいよう改善する。」旨常勤職員に準ずる性格を与え、これにふさわしい処遇を図ろうとする基幹要員の臨時雇用制度の抜本改善の基本方向を明らかにした。そして、右基本方向に沿つて林野庁は抜本的解決について予算措置及び国家公務員共済組合法との関連については大蔵省と、国公法及び人事院規則との関連については人事院と、昭和三六年の常勤化防止の閣議決定との関連については行政管理庁と、退職手当法との関連については総理府人事局と折衝したが、定員外職員である非常勤職員の常勤化の問題は林野庁固有の事項ではないこと等の理由で、これら関係省庁の了解を得るに至らなかつた。かかる事態の推移の中にあつて、林野庁は、全林野から当局なりの構想を示すようにとの強い要求もあつたので、関係省庁との折衝を今後も鋭意に進めることを前提として、同庁なりの雇用制度改正の案をまとめ、昭和四五年七月非公式に全林野に対し、国有林野事業における作業員の雇用区分の改正について「現行の三区分(常用、定期、臨時)を基幹作業員(通年及び有期)と臨時作業員に改正し、基幹作業員については資格要件を定めて経験年数、技能その他の選考基準により、現行の常用、定期作業員の中から人事院規則八―一二「職員の任免」に基づいて任用し、処遇についても国公法上の常勤職員として取扱い、臨時作業員については人事院規則八―一四「非常勤職員等の任用に関する特例」に基づき任用し、処遇についてはほぼ現行通りとする。」旨のいわゆる「七月提案」を行つた。「七月提案」に対し、全林野は「二確認」の基幹要員とは現行の常用定期作業員の全員を指すもので選考により基幹作業員を設けることは新たな差別を設けるものとして反発すると共に全作業員についての常勤性を強く要求し、同年九月には早急に具体策をたてて実現するようにとの総合的要求書を提示し、更に後記第二一回定期大会の闘争方針に基づき同年一二月一一日には全国六七営林署において組合員約四、〇〇〇名が参加して半日のストライキを実施した。林野庁はその後も作業員の地位の抜本的改善について昭和四六年実施を目指して関係省庁との折衝を重ねたが了解を得るに至らず、同年度の実施は見送らざるを得ない状況となつた。
(2) 全林野は、昭和四五年七月開催の第二一回定期大会において闘争目標の最重点課題を大幅賃上げと作業員の差別待遇改善(常勤制確立)とし、後者については秋から年末の予算編成段階、春闘段階で最大限のストライキをもつて闘うことを決定していたが、昭和四六年三月一、二日東京における全林野労組第五〇回中央委員会において右闘争方針に基づき春闘の一環として、賃上げ闘争のほかに同月二六日常勤制確立、全員常用化を要求して半日ストライキを行うとの方針を決定し、スト準備指令を発したが、国有林野事業の作業員の処遇改善問題は同月二三日の衆議院内閣委員会、同農林水産委員会において論議され、同月二五日の同委員会においては、林業労働者の雇用安定、他産業なみの賃金水準の確保、労働条件の改善等を講ずること、基幹労働者については常勤職員との雇用条件との均衡を考慮しつつ処遇の改善に特段の措置を講ずること等を内容とする「林業振興に関する件」(案)の決議がなされ、国会動向を受けて林野庁長官も同月二五日の団体交渉において同年四月中旬を目途に早期に結論を得るよう努力する旨表明したので、全林野は右政府の統一見解をみるとして同年三月二六日のストライキを延期した。
同年四月一三日の衆議院農林水産委員会において林野庁長官は関係省庁と協議した上での政府統一見解として、国有林野事業作業員の常勤性付与の問題について「国有林野事業の基幹的な作業員は、その雇用及び勤務の態様からすれば、長期の継続勤務となつていること等、常勤の職員に類似している面があるものと思料されます。しかしながら、これらの基幹的な作業員を制度的に常勤の職員とすることについては、国家公務員の体系にかかわるなかなか困難な問題であるので、慎重に検討してまいりたいと存じます。」との見解を表明した。そこで全林野は政府統一見解の常勤性確立の具体化の基本方向の最低限の要求であるとして「1、現行雇用区分、雇用基準を変更しないこと。2、『七月提案』の『選抜』はしないこと。3、常用作業員の処遇については基準内賃金は一応除外して常勤職員と同じ処遇にすること。4、定期作業員については常用作業員に準じて改善を図ること。5、出来高払制をなくし、常勤制度にふさわしい賃金制度を確立するための特別の委員会を設けること。6、定期の常用化促進の具体化計画を早急に組合に提示すること。」の内容を含む常勤性確立についての具体的メモを提示してきたので、林野庁は「1、制度にのせるということで努力する。2、当局の『七月提案』では組合との円満解決にならないと考えている。3、国会での林野振興決議は尊重する。」などの回答をした。その後も全林野と林野庁間で交渉が重ねられたが合意に至らず結局全林野は被告及び各営林局長の事前の警告にもかかわらず原告田村中央執行委員長名義の檄文を発して同月二三日前記のとおり当事者間に争いのない四・二三ストを実施した。
3 雇用安定化のため実施された施策
因みに当事者間に争いのない事実と<証拠>によれば、林野庁は独自の立場から全林野の要求に対応し既に認定した事項のほか次のように具体的施策を実施し漸次作業員の処遇改善をはかつてきたことが認められる。
林野庁は「二確認」の雇用安定の具体的実施及び農山村の過疎化による従来の若年労働力の確保の困難性に対処するとの観点から昭和四一年一〇月、「直営直用を原則とし、能率性を前提としてこれを積極的に拡大し、雇用の安定を図る。基幹要員の臨時的雇用制度の抜本的改善を検討するが、さし当り、製品生産事業の通年化による通年雇用の実現、事業実施期間の拡大などを検討して雇用の安定に努める。」旨を基本方針とする長官通達を発し、当面の措置としては、事業については、製品生産事業、造林事業を主体に直営直用の拡大を図り、冬山作業についても可能なものについては漸進的に実施し、雇用については余剰労働力の活用と定期作業員の雇用の通年化等を図ることとした。その後、冬山作業の実施の可能性の追求や各種事業の組合せ等による事業の平準化によつて昭和四五年までの間に約一万名が常用化され、その結果昭和四一年当時定期作業員の平均雇用期間は七年五か月であつたが昭和四五年末には八年一か月となつた。また昭和四四年には既に認定したように前記「雇用区分等覚書」により従来、常用、定期各作業員は過去一年ないし六か月以上の継続勤務の実績を必要とした点が廃止され、通年雇用のために署間常用の制度が設けられ、臨時作業員の月雇制度が廃止されて極力定期化されるなど雇用の安定が図られ、従来、貨物自動車の運転手、集材機の運転手等でもつぱらその運転業務に専念する常用作業員で定員外職員とされていた者についても昭和四一年以降昭和四六年までに約二、七〇〇名が欠員補充方式で定員内職員に繰り入れられるなどの改善が実施された。
(二) 四・三〇、五・二〇ストの経緯
当事者間に争いのない事実と<証拠>を総合すると次の事実が認められる。
全林野は、前記第二一回定期大会において作業員の差別待遇改善と共に闘争目標の最重点課題とされた大幅賃上げにつき春闘共闘、公労協共闘の一環として強力なストライキを組織して闘うことを決定していたが、昭和四六年三月一、二日の全林野労組第五〇回中央委員会において右闘争方針に基づき春闘の一環として四月下旬から五月上旬の自主交渉の山場と同月中旬の決着の山場で半日から一日のストライキを行うことを決定したあと、同月八日林野庁との第一回団体交渉において物価上昇率(7.7パーセント)、他産業との格差等を理由として月給制月額平均一万五、三〇〇円(当時の平均月給額六万四、〇〇〇円)、日給制(常用、定期作業員)日額平均一、三〇〇円(当時の平均日給額二、一〇〇円)の賃上げを要求し、以降労使間では数回にわたつて交渉が重ねられた。林野庁は昭和四六年四月三日の第三回交渉において同年度は五〇億円の赤字予算を組んでおり、また、一般公務員の給与、民間賃金等を総合的に勘案する必要があるので慎重に検討する旨回答し、同月二七日の第七回団体交渉では国有林野事業が逼迫した財政事情であることを理由として月給月額平均四、八九六円(賃上率7.7パーセント)、日給制日額平均二一三円(賃上率10.11パーセント)の有額回答をした。これに対し、全林野は前年の第一次回答と同額で、前年の上昇率を下回つていること、物価上昇率を考慮すると実質賃金が低下し、日給者と月給者の格差の是正は達せられないこと、民間における賃上げについての回答単純平均約九、〇〇〇円を下廻ることを理由として右回答を不満とし、統一歩調をとつてきた他公労協組合との関連では使用者側が調停段階では努力する旨表明しているのに当局にはそれがないとして独自で予定のストライキを行う旨決定し、四・三〇スト突入を指令し、被告及び各営林局長による事前の警告にもかかわらず、翌二八日田村中央執行委員長名義の「檄」文を発し、前記争いのない四・三〇ストを実施した。
その後も団体交渉は続けられ、全林野は当初予定の同年五月七日のストライキを同月一四日に予定変更し、更に同月一二日の第一一回団体交渉において当局が「賃金引上げについては今後、更に民間賃金の動向もみながら誠意をもつて努力する。日給制についても月給制の賃金水準との間にかなりの開きが存在する事実に立つて誠意をもつて対処する。」旨の回答をしたことを考慮するとして更に同月二〇日に延期したが、同月一三日の第一二回の団体交渉において交渉は決裂に至つた。翌一四日全林野は公労委に調停を申請し、労使交渉の場は調停に移されたが、同月二〇日被告及び各営林局長による事前の警告にもかかわらず全林野は前記争いのない五・二〇ストを実施した。
なお公労委は同月二二日に調停委員長の最終的な解決案として月給月額平均七、四一三円、日給制日額平均三三〇円を提示したが合意に至らず、同月二五日仲裁手続に移行し、同年六月一日調停委と同額の仲裁裁定により妥結した。
(三) 五・八ストの経緯
当事者間に争いのない事実と<証拠>を総合すると五・八ストの経過について次のとおり認められる。
景山丸(一九九トン、一二名乗組み)は昭和三一年以降屋久島国有林における生産材を鹿児島港へ輸送するため鹿児島営林署に配署され、僚船錦嶺丸と共に木材の直営輸送に使用されていたが、昭和四五年四月一日屋久島国有林の自然保護に関する施業計画の樹立により同島の国有林の年間伐採指定量が前計画の約七八パーセントに減少し、これに伴い、同島からの輸送量は減少し、加えて人件費の高騰、償却費の増加等により輸送コストは上昇し(景山丸の昭和四四年度の一立方メートル当りの運送単価が二五一七円、昭和四五年度は三七二六円であり、錦嶺丸についてはそれぞれ二八五四円、三二一〇円)、民間請負化の方が安価な状態となつていた。とくに景山丸の老朽化は著しく、昭和四一年以降修理費は増加し、昭和四五年のみで九一七万円を要し(錦嶺丸については二〇七万円)、更に継続就航すれば昭和四六年度においては定期検査のための出費九五〇万円が見込まれ、他に同年五月の中間検査を受けるとすればそのための出費も予定された。
そこで、熊本営林局は同年度業務計画の一つとして同船の廃船計画を立案し、同年二月八日全林野労組九州地方本部に対し、右輸送コストの増加等の理由を説明して同船の廃船及び関連措置として「1継続就航の錦嶺丸の乗員について再編成し、錦嶺丸ならびに景山丸の乗員中海技免許を有する一二名を優先的に選考し、乗船させる。2他職員は本人の希望を尊重して近接営林署の自動車運転手等の機械要員として配転する。3機械要員としての必要な資格取得については今回限りの措置として別途の基準により公務扱いで、資格取得に必要な研修参加などを実施する。但し、六〇才以上の高令職員五名については極力退職勧奨を行なう。」等を提案した。これに対し、全林野は「廃船は雇用安定のための事業確保を規定する『二確認』に反する。新業務計画実施予定の同年四月一日まで二か月足らずで十分な協議ができないうえ、職種変更の者、勧奨退職を受ける者にはそれなりの決意が必要である。景山丸運航にあたつては屋久島杉のみでなく他荷物も集荷し、併せて積載運送することにより輸送コストは下げられる。」などの主張をして廃船に反対し、同年二月二二日全林野労組中央本部、九州地方本部、鹿児島分会の共闘会議を発足させ、官船廃止阻止闘争を展開することとした。労使間では更に中央交渉及び局、署段階での下部交渉が行われ、同年三月二九、三〇日の中央交渉では同年四月一日の廃船予定日を延期し、同月二八日を労使間の最終交渉期限として交渉が続けられることになつたが、全林野は当局の廃船の決意が固く、労使の意見は対立のまま平行線をたどつていたので、交渉が決裂に至つた場合を予想し、同日を抗議スト予定日としてその準備指令を発した。しかし、更に同月二七日頃の中央交渉では交渉期限が同年五月八日まで延期されたのでスト予定日も同日に変更された。この間当局は必要な各種資料を提示して労組側と同日までの間二六回に及ぶ交渉を行い、これとは別途に景山丸が所属する鹿児島営林署においては四四回にわたる折衝を行つたほか、最終段階として同月六日から同月八日早朝にまで及ぶ交渉を行つたが、両者は合意に至らず当局は組合側に景山丸の廃船を通告し、交渉は決裂した。そこで全林野は前記争いのない五・八ストを実施した。
なおその後交渉は再開され、同年七月八日廃船に伴う関連措置として「当局は職員の配置換えについては勤務地、職務内容等について本人の意思も尊重して協議の上円満に解決するよう努力する。退職勧奨については船員を理由に特別扱いしない。」などを内容とする官船官トラ廃止に伴う労使条件について団体交渉議事録抄NO・2が締結され、景山丸の廃船問題は事実上解決に至り、五・八スト以後鹿児島県山川港に繁留されていた景山丸も昭和四七年一月民間業者に引きとれ、同年二月には独航機能を撤去され船藉を失うに至つた。
以上の事実が認められ、原告花田敏夫の本人尋問の結果中、景山丸が廃船処分後民間業者に売却され海運業務に供されていたとの部分は前掲の各証拠に照らし、採用することができない。
(四) 争議行為における原告らの役割
1 木村を除く原告らが、別紙(二)記載の全林野労組の中央本部の三役又は執行委員として、四・二三、四・三〇、五・二〇の各ストを企画し決定した第二一回定期全国大会、第五〇回中央委員会等一連の諸会議を主催するなどして右争議行為の企画、決定において中心的役割を果たし、別紙(四)ないし(六)記載のとおり延べ一一三営林署において延べ六三三六名の職員にこれを実施せしめたこと、原告木村が別紙(二)記載の組合役職にあつて旭川営林局管下の営林署職員の四・二三、四・三〇、五・二〇の各ストを指導し実施せしめたことは当事者間に争いがない。
2 原告熱田、同鈴木、同花田が景山丸廃船問題の交渉のために中央本部から派遣され、団体交渉の指導等にあたつていたこと、同人らが昭和四六年五月八日五・八ストを指導、実施させたこと、原告鈴木はその実施の責任者として現地に赴き、同日早朝鹿児島貯木場前で実施された職場大会においてストライキ突入を指示するなど組合員の職務放棄につき自ら現地でこれを指導したことは当事者間に争いがなく、原告花田敏夫の本人尋問の結果によれば、前記のとおり全林野労組中央本部は当初の交渉、期限最終日とされた同年四月二八日をスト予定日として準備指令を発したが、同期限は同年五月八日まで延長されたのでスト予定日を同日に変更したこと、スト参加予定の組合員は景山丸の乗組員とされたが、当日乗船していない者も予想されるのでスト参加者の指名等その他の実施方法は派遣された原告熱田ら三名の中央執行委員と地元の九州地方本部にゆだねられていたこと、交渉決裂後、原告熱田らにおいてスト参加者を指名し、スト突入を指令したことが認められる。
右の事実によれば、五・八ストはもとより全林野労組中央本部の企画指導のもとに行われたものであるが、その実施についての具体的指令は同原告ら三名と九州地方本部により発せられたものということができる。
(五) 原告らの行為と公労法一七条一項違反
本件各ストは集団的労務提供拒否であるから、公労法一七条一項前段により禁止された同盟罷業に該当し、原告らが本件各ストにおいてなした前記(四)の行為はその共謀、そそのかし、あおり行為ということができる。被告は同条違反を理由として本件処分に及んだのであるが、原告らは同条の違憲性、国公法による懲戒処分の違法性、本件処分の不当性等を主張するので、以下に項を改めてこれらの点に順次判断を加えることとする。
四公労法一七条に関する原告らの主張について
(一) 原告らは公労法一七条一項が憲法二八条に違反する旨を主張する。しかし、公労法一七条一項が合憲であることは、昭和三〇年六月二二日、昭和四一年一〇月二六日、昭和五二年五月四日の各最高裁判所大法廷判決により一貫して示されているところであるから、右主張を採用することはできない。
この点に関連し原告らは国有林野事業に従事する職員、特に定員外職員である作業員としての地位の特殊性から同事業には公労法一七条を適用すべきではない旨を主張する。しかし、名古屋中郵事件に関する昭和五二年五月四日の前記最高裁判所大法廷判決は、公労法適用下にある五現業及び三公社の職員につき、勤務条件決定の面からみた憲法上の地位の特殊性(勤務条件法定主義、財政民主主義からの制約)、市場における抑制力等の面からみた社会的経済的関係における地位の特殊性、職務の公共性、代償措置の整備等の諸点から公労法一七条の合憲性を説明しており、これはそのまま国有林野事業に従事する作業員にも妥当する。すなわち、国有林野事業に従事する作業員は雇用形態、給与体系等において定員内職員とは異なつた処遇を受けているとはいえ、ひつきよう国家公務員である以上、その給与は国の財政に依存し、勤務条件は本来的に立法府において決定されるべき地位におかれていることに変りはない。また、これら作業員の社会的経済的関係における地位につき他の国家公務員と特に別異に扱うべき根拠は見出し難いし、既に認定した国有林野事業の規模、公益的機能からみてその職務の公共性も肯認し得るところである。更にこれら作業員も分限、不利益処分に対する審査請求等身分保障の規定を含む国家公務員法の適用を受けると共に公労法により当局との間の賃金額の決定をはじめとする諸紛争につき公平な公共企業体等労働委員会のあつせん、調停及び仲裁を受ける機会を与えられているのであるから、その代償措置も整備されているものということができる。もつとも、定員外職員である作業員は国公法付則一三条に基づき一般職に属する職員に関する例外として定められた人事院規則八―一四により二ケ月以内の期間を定めて採用された非常勤務職員としての扱いを受けるのであるから、いわゆる雇用期間の定めのない定員内職員とは異なり期間の経過によりその地位を失うことになり、その他このことから派生して定員内職員と全く同一の扱いを受けていない面もあるが、この点は国有林野事業の雇用形態が受ける自然的季節的制約に由来するものである以上やむを得ないものというべきであり、このことが直ちに作業員の争議行為について公労法一七条の合憲性否定にまでつながるものとはいい難い(付言すれば、作業員の雇用形態も期間の反覆更新、優先雇用、失職期間中の退職手当又は失業保険金の支給等の運用により実質上通年化、長期化がかなり実現していることは、既に認定したとおりである)。以上述べたところによれば、国有林野事業に従事する定員外職員である作業員につき、他の公労法適用下の職員と特に区別し争議権を認めなければならないような事情は見出し難い。
なお、公労法は国有林野事業を含む五現業及び三公社の職員に対し団結権及び管理運営事項を除き当局側と団体交渉権、労働協約締結権を認め、政府又は三公社に財政に関する一定事項につき決定権を与えているが、それらは前記名古屋中郵事件の大法廷判決が示すように、憲法二八条の当然の要請によるものではなく国会が憲法二八条の趣旨をできるだけ尊重しようとする立法上の配慮によるものというべきである。このように国有林野事業の職員が公労法上有する団体交渉権等が憲法上のものでないとされる以上その背後に争議権の存在を当然のものとして予定することはできないのである。換言すれば、国家公務員の勤務条件につき本来の決定権者である国会に対し争議権の行使が許されない以上、国会からその決定権の委任を受けた政府に対してもまた争議権の行使は許されないことに帰着せざるを得ないのである。
このほか、原告らは立法事実の欠如又は消滅ということを違憲性の根拠として主張する。しかし、実定法規はそれが適法な手続を経て廃止されない限り効力を有するものとして合理的に解釈すべきであり、これまで述べた憲法及び公労法の解釈は、現憲法体制下におかれている公務員としての地位の特殊性ということに着目して導かれたものであるから、原告らの右主張は失当である。
(二) 次に原告らは国有林野事業に従事する職員の争議行為による影響という観点から同事業には公労法一七条を適用すべきでないこと又は同条を限定合憲解釈すべきことを主張する。しかし、公労法一七条一項の法意が公共企業体等の職員の職務の公共性に着目し争議行為による国民生活への支障防止の趣旨を含むことはもとよりであるが、何よりも財政民主主義にあらわされている議会制民主主義という国政の基本原則を保持することに主眼をおいているものと解せられ、名古屋中郵事件の大法廷判決が引用する昭和四八年四月二五日の大法廷判決が判示するように「勤務条件の決定は民主国家のルールに従い、立法府において論議のうえなされるべきもので、同盟罷業等争議行為の圧力による強制を容認する余地は全く存しないのである」から、争議行為による影響の有無、程度いかんは合憲性の判断処分の適否そのものを左右するものではなく、事情により処分の当否、すなわち処分権者の裁量権の濫用の有無を判断するための一資料になるにとどまるものというべきである。
(三) 原告らは作業員の業務形態と民間林業従事者のそれとの同一性、本件各ストの態様(単純労務不提供、四・二三、四・三〇、五・二〇各ストに治山関係職員不参加)、本件各ストに至るまでの林野庁の不誠実な対応等からみて本件各ストに公労法一七条一項を適用することは憲法二八条の趣旨に反する旨主張する。
1 先ず原告らが国家公務員として扱われる以上作業員の業務形態及び本件ストの態様を理由に公労法一七条一項の適用を否定することは相当でない。
2 次に、本件各ストにおいて、公労法一七条一項の適用を否定しなければならない程林野庁当局に不誠実な対応があつたかどうかについて、検討する。
(1) 四・二三スト関係
全林野の雇用安定化要求の中心をなす定員外職員である作業員の常勤化問題はひとり林野庁固有の問題ではなく、多かれ少なかれ他の省庁にもみられるところで、これら職員を定員に組入れるか、或は定員外の常勤職員として制度的に処遇するかいずれの措置をとるにしても、それはいわば政府全体の問題として国家公務員制度の根幹に触れるものであり、究極的には広く非現業及び現業の国家公務員全体に通ずる勤務条件にかかわる立法上予算上の措置を要する事項として、立法府の意向と無関係には決し得ないものであつて、林野庁当局をも含め政府において独自に抜本的な解決を期待しうる性質のものではない。
国有林野事業に限つてみても、四・二三ストにおいて全林野が要求した常勤制の確立、全員の常用化等を実現するには、右のような制度的制約を改めるほか、同事業にとつて避け難い自然的、季節的制約下にあつて継続した事業量を確保し、かつ可能な限り事業経営における収支の経済性を維持する必要があるのであり、かかる状況下にあつて、既に認定したように、林野庁は、全林野の要求に対応し、労働協約の締結、行政上の運用措置等によつて、事業の通年化、多数作業員の常用化、雇用期間の反覆更新・前年度雇用者の優先雇用・年度間の失職期間中の失業保険金支給等による実質的な雇用継続の実現、賃金以外の諸手当の支給、各種休日休暇等の有給化等を実施することにより、いわゆる「二確認」等において示した作業員の処遇改善に努めてきたことを認め得るのである。しかし、法形式上作業員が定員外職員として期間二ケ月の非常勤職員として扱われる以上定員内職員と全く同一の処遇をすることは困難であり、常用作業員と、定期作業員との間においても後者が冬期間失職する身分である以上両者に処遇上の差異があらわれるのもやむを得ないものがあるというべきであり、現に弁論の全趣旨によれば、昭和四五年度の新賃金事案についての仲裁裁定において、公共企業体等労働委員会は、現時点における格差縮小の必要を認めつつも「定員外職員は職務内容、雇用形態、賃金体系などの点で、定員内職員と異なるから、両者の賃金水準が必ずしも同一でなければならないとは考えない。」旨の見解を示していることが認められるのであり、このことは同じく定員外職員である常用作業員と定期作業員との処遇にもあてはまるものということができる。
要は全林野が要求する作業員の雇用安定化の問題は、国政という高い見地から長期的視野の下に改革の途を見出すべき性格のものというほかはなく、勿論その間にあつて、林野庁を含め政府として、これを放置すべきではなく、現行制度の枠内で可能な限りでそのための対応措置を講じなければならないが、既に認定したような当局による諸々の措置、全林野に対する諸提案、その実現のために払つた各省庁との折衝等は、一応評価すべきものを含んでいるものと認めて差支えなく、(原告伊藤嘉太郎本人尋問の結果によれば、全林野としても、処遇改善についての当局側の努力を評価していないわけではないことを認め得るのである)、それにもかかわらず、全林野がなおこれを不満足として争議行為に訴えたことは、公労法一七条一項に違反するものと認めざるを得ない。
(2) 四・三〇、五・二〇スト関係
昭和四六年度の賃金値上げ交渉の争点の一つである日給制賃金の格差是正についても月給制との比較自体が困難な要素を含むうえ、「一〇確認」による他産業五〇〇人規模を目標として毎年漸次解消の方向で賃上げが行われていたこと、原告伊藤嘉太郎本人尋問の結果によれば、民有林野事業の従業員のほとんどが日給制であつて、これと対比すると国有林野事業の従業員の方が逐次改善された結果全般的に高水準にあると認められること、既に認定したように昭和四五年度の国有林野事業経営は大幅な赤字であり、昭和四六年度も赤字予算であつてある程度の低額回答もやむを得なかったことを考慮すると林野庁の団体交渉における対応が不誠実であつたとまで評価することはできない。従つて、四・三〇、五・二〇ストにつき公労法一七条一項の適用を否定しなければならない事情は見出し難い。
(3) 五・八スト関係
景山丸の廃船問題をめぐる経過をみるに廃船によつてその一部乗組員について職種が変更するなど勤務条件の変更を伴う者あるいは退職勧奨を受ける者もおり、当該組合員にとつてその処遇は一身上の極めて切実な問題であつたであろうことは十分肯けるところである。しかし既に認定したように輸送量の減少、輸送コストの増加、老朽化による修理費の増大、継続就航する場合の中間検査、定期検査に要する多額の出費は事業経営上無視できないものであり、同時に示された乗組員に対する関連措置が六〇才以上の高令職員につき勧奨退職、その余の職員につき配置転換を内容とするものであることを考えると廃船を前提とする業務計画が不当であつたとまではいえない。原告らは景山丸の廃船は「二確認」及びその後になされた確認の趣旨に反する旨主張をするが、前記のとおり「二確認」が本件のような事業経営上必要な合理化についてこれをなさない旨表明したものでないこと勿論であるから原告らのこの点の非難は当を得ないというべきであるし、原告花田敏夫の本人尋問の結果中木工所廃止問題を官船に波及させない旨の確認がなされたとの部分は本件における弁論の全趣旨に照らしにわかに採用し難く、他に廃船問題についての確認があつたことを認めるに足る証拠はない。また、原告花田敏夫の本人尋問の結果によれば、五・八スト当時当局が廃船を前提としながら中間検査を申請し、これを組合側に匿していたことが認められるが、原告らはこの事実をもつて信義則に反する旨、主張する。しかし、既に認定したように、景山丸の廃船及びこれに伴なう乗組員に対する措置は経営上やむを得ないものがあるし、五・八スト当日まで林野庁としても各種の資料を提示して組合側と回を重ねて交渉しその理解を得るべく努力をしていたのであるから、当局による中間検査申請の事実が労使関係からみて遺憾な点があつたとしても、そのことの故に五・八ストが公労法一七号一項の適用を免れることにはならないのである。
(四) 究極のところ、国有林野事業に従事する職員、特に定員外職員である作業員の争議権の問題は、最高裁判決が示す前記のような五現業及び三公社職員のおかれた地位の特殊性を前提とし、広く国政の立場から国有林野事業の性格、作業員と定員内職員との差異等国有林野事業とこれに従事する作業員が有する固有の事情を他の公共企業体と比較・検討のうえ国会において論議、決定されるべき性質の立法事項といわざるを得ないのであつて、実定法が現にこれを禁止している以上は違反してなされた争議行為は違法と評価するほかないのである。
五公労法一七条一項違反者に対する国公法による懲戒の適法性
被告は、田村、伊藤、谷沿を除くその余の原告らが公労法一七条一項、国公法九九条に違反したとして、国公法八二条一号、三号により同原告らを別紙(三)記載の懲戒処分に付したのであるが、原告らは公労法一七条一項違反者に対しては同法一八条による解雇のみが許され、集団的労働関係における争議行為に対して、個別的労働関係における懲戒処分を課することは許されない旨主張する。しかし、公労法一八条は同法一七条に違反して争議行為を行つた者に対し国公法上の職員の身分保障に関する規定にかかわらず解雇をすることができる旨を定めたものと解せられるから、公労法一七条違反者に対し同法による解雇をするか、国公法にもふれるとして同法による懲戒処分を選択するかは処分権者の裁量に委ねられているというべきである。従つて原告らの右主張は理由がない。
六本件処分の相当性
本件各ストにおいて、原告らが全林野労組の役員として指導的役割を担つてきたことは前記三の(四)に述べたとおりであり、その行為は公労法一七条一項に違反するほか、国公法九九条にも違反するから、国公法八二条一号及び三号の懲戒事由に該当するものということができる。
そこで、原告田村、同谷沿、同伊藤に対する公労法一八条による解雇及びその余の原告らに対する国公法八二条による別紙(三)記載の各懲戒処分の相当性について判断する。
(一) 前記四に述べたように、争議行為を禁止した公労法一七条一項に違憲性は認められず、また、本件各ストに同条を適用したことについても違憲性は認められないのであるから、本件各ストは同条に違反する違法なものというほかはない。しかして、本件処分は右のように違法と評価された本件各ストに対する原告らの指導責任を問うものであるから、これを不当労働行為であるということはできない。また、原告らが主張するような本件処分にあたつての被告の反組合的意図を認むべき証拠もない。
(二) 本件各ストに至るまでの林野庁当局の対応に不誠実、不信義があつたものと認めることができないことは既に述べたとおりであり、一方、全林野は要求事項につき幾多の制約の下にあつてそれなりの成果を得たものと評価することができるから本件各スト実施につき、労組側に法による代償措置をもつて補完できない程緊急やむを得ない動機があつたとは認めがたい。特に、四・二三、四・三〇、五・二〇ストについては当局側より事前の警告を受けているにもかかわらずこれを無視し、前記のとおり全国的規模にわたり延べ一一三営林署の延べ六三三六人がこれに参加して実施されたもので、しかも、それは労組側により、当局との交渉を有利に導くため、昭和四五年七月の定期大会において昭和四六年春闘の一環として当局に対する牽制手段として、かねてから計画されていたものと認めざるを得ないのである。
次に原告らがいずれも全林野労組の専従役員として本件処分の場合と同様争議行為の指導等を理由に別紙(三)記載のとおり停職減給戒告の懲戒処分を受けていることは当事者間に争いがなく、特に原告田村、同谷沿、同伊藤は昭和四六年一月三一日停職九ケ月、同中角は同年二月三日停職五ケ月、木村を除くその余の原告らは同年一月三一日停職五ケ月の処分を受け、いずれも本件各スト当時停職中の身分であつたことは、いかに労働運動のためとはいえ、同種の違法行為を反覆したものとして、前記三の(四)に述べたような原告らの本件各ストにおける指導的役割と共に本件処分の当否の判断にあたつて軽視し得ない事情というべきである。
以上述べたような本件各ストに至るまでの経緯、その規模、原告らの役割、原告らの処分歴等を総合すれば、全林野中央本部にあつて、いわゆる組合三役として四・二三、四・三〇、五・二〇ストに関与した原告田村(執行委員長)、谷沿(副執行委員長)、伊藤(書記長)に対する公労法一八条による解雇処分、執行委員として木村を除く原告らのうち、四・二三、四・三〇、五・二〇ストに関与した斉藤、阿部、田村靖、中角、岡田、岩村、石垣、浜砂に対する国公法八二条による七か月の停職処分、右ストのほか五・八ストにも関与した鈴木、花田、熱田に対する同条による八ケ月の停職処分、旭川地方本部執行委員として四・二三、四・三〇、五・二〇ストに関与した原告木村に対する同条による一〇日の停職処分は、いずれも社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいえず、被告が処分権者として委ねられた裁量権の範囲を超えてこれを濫用したとまで認めることはできない。
(三) なお、本件処分の当否と本件各スト(特に四・二三、四・三〇、五・二〇スト)の国有林野事業及び国民生活に与えた影響との関係について触れると、前記各ストによるこれら影響は確定的には論じ得ないが、既に述べたように同事業が高い程度の公共性を有し種々の公益的機能を果たし、その諸業務の実施が統一的計画的に行われるのであるから、これに対し前記各ストが全国的規模で連続的に計画されて実施されたことを考えると、事業に対する影響が全くなかったものと断定することはできない。のみならず、公労法の適用を受ける国営企業、公共企業体において、職員により争議が行われた場合その事業及び国民に対する影響を直ちに物理的に測定できる企業体とそうでない企業体があるのであり、後者の企業体にあつて、個々の争議の影響が物理的に測定し難いとの理由で争議関係者に対し処分をせず或いは重くない処分のまま放置することは、ひとしく公労法の適用下にありながら一部の企業体の職員についてだけ法により禁ぜられた争議行為の続発を容認することにつながるおそれがあるし、また、その積み重ねがいつしか重大な影響の発生へと発展しかねないとも限らないのである。そして、争議行為禁止の主たる理由が財政民主主義にあらわされている議会制民主主義の尊重にあることと、前記各ストに至る経緯、その規模、原告らの役割、処分歴等本件にみられる諸事情を勘案すれば、争議の影響の度合を確定的に測り得ないとしても、本件においてはそのことが処分の軽重の当否を判定する決定的な要因とはなり得ないものというべきである。
また原告らは本件処分はその後の争議行為の処分事例に比し、重きに失する旨主張し、成程、<証拠>を総合すると本件以前のいわゆる春闘を主とする争議行為に対する処分事例として中央本部役員の解雇は昭和三四年に一三人、昭和三八年に一人があるのみで昭和四八年度においては本件各争議行為より広範囲、長時間にわたつて実施されたのに中央本部段階では処分者が少数であることが認められるが、なお前記証拠を詳細に検討すれば、全林野中央本部役員の被処分者が減少しているのは在籍者が減少していることによるもので、地方本部段階では本件争議行為の際の処分より重い処分を受けている者もあることが認められる。懲戒処分は前記のとおり被処分者の争議行為において果した役割、地位、被処分者の処分歴、争議行為の規模、動機など当該処分をするにあたつて存する固有の諸事情を勘案してなされるものであるから右各証拠をもつて本件処分がとくに他の処分事例に比し、重きに失するとまではいえないというべきである。
七以上のとおり本件処分を無効とする原告らの主張はいずれも採用できない。よつて、原告らの請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(松野嘉貞 浜崎恭生 牧弘二)